Dream #20220111

A tribute to an oshiruko can.

ここかっぱ橋通りでは、慌ただしく毎日が過ぎ去る。
日々の中に埋没されてしまった感情も数あれど…

…その片隅には、今も色褪せる事のない小さな喜びがある。

冬に、近くのコインランドリーで洗濯物が乾くのを待っている間…

…温かいおしるこ缶を飲むこともその一つ。

半ばわざと肝心の100円玉を持たずに向かうことが往々にしてある…

…自動販売機の恩恵を受け、1000円札を両替しないといけない。

そうして手にした100円玉を投入して、洗濯を開始する:
-30分
-最高温度

洗えるおむつを溶かしたこと以外で、この設定で困ったことはない。

僕の冷えた手には、暖かくて魔法のような缶があった。

そして、
今から、
やっと本番。

この金属の筒から伝わる柔らかな温もりに、集中しよう。熱がゆ˙っ˙く˙りと僕の全ての指に広がっていく。

缶を開けると、ほのかな蒸気が次第に辺りに放たれる。

微かな薫りが、赤くなった僕の鼻先をくすぐる。

開けっ放しになっているドアの外に、マスクを外した僕がいる。
コインランドリーでは「飲食禁止」の張り紙が貼られているのを何度か見たことがある。

このコインラインドリーにはそういった張り紙はなかったが、
なぜか、罪悪感を感じて仕方がなかった。
この缶がゴミになることに対しても。
数少ない通行人のために24時間稼働している自動販売機を利用することに対しても。

薫りは僕の鼻腔を完全に満たし、最初の一口は僕の罪悪感を追い払う。
舌触りはなめらかで、
温かさは心地よく、
キャラメルのような甘さは、
溶けた小豆の粒と調和する。

自分が浮かんでいるような気がする。
唇が缶と触れ合うその感覚に魅了されている。
幸せを感じているのではなく…幸せは僕そのものだ。

そして突然、忘れていた記憶が蘇る。
僕は思う…この缶の呑み口は本当に清潔なのか?

知人の父親の叔母の友人から聞いた話。ネズミのおしっこがついた缶を飲んで、亡くなった人のこと。
疑わしい情報源だと、日本企業の衛生管理は評判通りに高いものだと自分に言い聞かせながら、至福の二口目を飲むことにする(帰宅後はきっとネットで検索するだろうけど)

そうか、この事について、いくつかのコマに落とし込んだ作品を作ったらどうだろう?この瞬間、感じたことに焦点を当てて。「寒い冬の夜、東京スカイツリーを眺めながら洗濯物が乾くのを待つ男」
それは何にも代えがたい趣があるだろう!

(いや、もっと趣深いものはあるでしょうと貴方は言うでしょうが)
でも、本当に素晴らしいんだ!
でも、ちょっと大袈裟だったかもしれないとも思う。

僕はここにいること、生きていること、色んなことを感じているのは幸せだ。
そしてその幸せを共有したい。

でも…僕は今、ただの資本主義の歯車の一つになっていないか?
このコミックは、飲み物の広告に成り下がっていないか?
貴方の購買意欲をただ掻き立てるだけの!
そうして、またゴミが増えちゃうのかな。
(お汁粉メーカーには御礼を頂戴するでしょうが。読者はそこまでいない、か。)

FUCK THE SYSTEM!純粋に物事を楽しめなくなったんだ!
皮肉な事に、僕はそう思いながら残りの糖分を流し込み、この思考を止めた。

何度かに分けて飲み干した缶を専用のゴミ箱に捨てる。
なんておかしなゴミ箱だ。ゴミの仕分けをしている気にさせたいのか、明らかに二つの穴は同じ袋に繋がっているだろうに。

神のみぞ知る。この思考を止めるような飲み物はもうない。

洗濯機のアラームが終わりを知らせる。
半ば背中を押された気持ちで蓋を開けると、ふわふわに仕上がった服が僕を暖かく出迎えた。

辺りを見渡すと、最近の雨で数日前の雪がついには消え去っていた…

外気との温度差に僕は魅了される。
外はひんやりとした青。
中は暖かい赤。

帰路につくその道すがら、僕は理解した。
その中間にある、綺麗な紫は小豆の様相を呈していた。